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建築日和の建築的思想録です。


【く】空間のお話し

「空間」は日常的で当たり前の存在ですが、捉え所のない概念です。
「物と物の間にある何もない広がり」とでも言えば良いのでしょうか、私たちの身の回りの全てを支配しているのです。
物理的、数学的空間から情緒的、精神的空間の全てを「空間」と捉えることができますが、今回は建築に関わる空間−空間と建築の関係−についての話です。

建築そのものが空間であると言っても良いのですが、それでは分かり難いので、建築の「内部空間」と「外部空間」について考えてみたいと思います。

「内部空間」
床や壁、天井で囲まれた部分を言い、○○室などの名前を付けて機能を分かり易く表したりします。例えば、“台所”という室名を付けた内部空間には、流しやコンロなどが設けられていて、調理をする空間であることが認識できます。このような幾つかの機能空間が組み合わされて建築が成り立っているのです。
でも、よく考えると奇妙なことに気が付きます。
空間として私たちが見ている対象は、実際には床や壁の表面(仕上)であって、空間に充満している空気ではないのです。しかも、空間をつくる(建築)行為も、空気ではなく床や壁をつくっているに過ぎないのです。しかし、空間が十センチから厚くても数十センチの板状の構築物を並べてつくられただけだとしても、無限の組み合わせの中から最良の結果を求めて試行錯誤を繰り返せば、唯一無二の特別な空間がつくり出せるのです。こうして特別な空間が集合し、特別な建築がつくり出されるわけですから、建築は唯一無二の存在なのです。

「外部空間」
一方、外部空間とは何でしょう。文字通り、外の空間ですから、建築で言うところの外壁の外側ということになります。
では、外部であればどこまででも外部空間と言って良いのでしょうか。よく、「内部のような外部空間」とか「外部のような内部空間」という表現を使う場合があります。分かり難い言葉ですが、内部空間と外部空間が密接な関係にあることを示す言葉だと思います。
つまり、外部空間は内部空間無しには語れないと言うことです。
特定の建築物を考えた場合、そこには敷地という特定の範囲が決められています。建築は、その範囲内で計画され具体化されるので、内部空間は前述の通り建物の内に存在するのは分かるとして、外部空間はいったい何処にあるのかということです。
私の考えでは、建築における外部空間は内部空間と相互の関連が保たれる範囲で、敷地境界までの範囲が分かり易いと思います。もっとも、広大な敷地にポツンと建つ建物の場合は、少々範囲が狭くなるかもしれません。いずれにせよ遙か彼方の遠方までではなく、外部空間にも限られた範囲があるという考えです。

外部空間に関連して、外観を考えてみます。建築物を外から見た時に見える姿を外観と言いますが、これは外装材の表面や窓といった外壁の外側を見た状態です。様々な状態が、建物の特徴を現します。
もう少し話を進めれば、窓等の開口部は内部と外部の連結部と言えるでしょう。内から外を眺める時、外から建物を眺めた時、開口部が大きな意味を持ちます。内部からだけではなく、同時に外部から内部の様子を知ることができる装置でもあるのです。開口部の存在によって、より密接な内部空間と外部空間の関係が生まれるということです。

さて最後に、建築と離れて人の内部と外部についてです。建築の外部空間に倣えば、人の外部は手が届く範囲とでも言えばよいのでしょうか。ある人が直接的に影響を与えることができる範囲で、人によって異なる広がりだと思います。
外観即ち容姿は、その人の特徴を良く表していることは説明の必要がないでしょう。勿論、内面が滲み出ていることもです。
では内部はどうでしょう。内蔵などの身体を構成する部位も内部ですが、これらは建築でいう壁等に該当する部分と考えられます。内部空間の空気の部分は、そう、心です。
感情や思想など心の問題は脳の反応ということだそうですが、最も身近な「内部空間」が最も大きな空間と言うことができそうです。



2007/04/10


【き】キッチンのお話し

キッチンは台所や炊事場のこと。
最近では、住宅においても中心的な位置を占めるようになり、機能性や使い勝手などを重視される方が多くなってきました。

ところで、台所の語源をご存じでしょうか。平安時代の内裏や宮家、貴族の家にみられた「台盤所(だいばんどころ)」からきているのですが、台盤所とは台盤を置き女官が馳走を運んできて膳立てをする場所で、どちらかというと配膳室の意味合いが強い室だったようです。
では、炊事を行ったのはどこなのでしょうか。
煙や匂いが身分の高い人々に行かないように、厨(くりや)と呼ばれる別棟で炊事を行ったのです。このころのキッチン(台盤所や厨)が家の中心的存在というには少々無理があるようで、裏方の扱いが正しいところでしょう。
鎌倉時代以降になってから、台所は炊事や調理をする室として、武家にも引き継がれていきました。ただし、武家といっても位によって台所の設えに大きな差があったようです。

一方、伝統的な農家の台所は、竈と囲炉裏という形式で火の使い方を分けている点が特徴的だと思います。竈のある土間で炊事や調理を行い、囲炉裏のある板の間で食事、接客をするという具合です。囲炉裏には、暖房以外に簡単な調理、乾燥などの機能があり、生活の中心に位置付けられているのです。
ただ、武家、農家いずれにしても炊事作業とは土間の冷気や湿気、中腰姿勢を強いられる重労働であり、女性の仕事と決められていたのも事実なのです。
そして、女性達がこの重労働から開放されたのは、ガスや水道の普及が進んだ最近になってからのことなのです。これらインフラの普及によって、台所は土間から床に上がり、立った姿勢で作業ができるようになったこと、さらにはキッチンユニットの多様化へと進むきっかけになったのです。

現在、様々なキッチンスタイルを取り入れた住宅があります。キッチンやダイニングは生活の中心になり、多様なライフスタイルの表現方法も様々です。
かつての、キッチン=キッチンユニット(システムキッチンなど)という考え方から、真の生活空間としてのキッチンへ・・・・nLDKが示す記号化された住宅に於けるKから、コミュニケーション空間として、より中心性が高い空間へと向かう傾向にあって、作ることから集まることや見せることの比重が大きくなっています。さらに、かつて外部で炉を囲んでいたように、自由で楽しいコミュニケーションのためにキッチンをモバイル化して外部に持ち出そうということも試行されているのです。
辛くて面倒な作業空間から、より快適でより楽しい空間へ・・・・キッチンは、まだまだ発展途上なのです。



2007/01/20


【か】確認申請のお話し

正しくは建築確認申請で、建築行為における行政手続きの一つです。確認申請については建築基準法第6条に規定されており、建築物の建築(※1)を行う場合には、確認申請によって計画の内容が法規等に適合していることについて建築主事の確認を受けなければならないというものです。
具体的には、例えば千駄ヶ谷でマンションの新築を行おうとする場合には、渋谷区役所の都市整備部建築課建築審査係に確認申請書を提出して確認を受けることになります。確認審査が完了すると確認済証が発行され、晴れて工事に着手できるわけです。
ここで断っておかなければならないことは、確認申請が建築基準関係規定に対する適合性を審査するもので、他の法規定は対象とならない点です。
工事に着手する前に行わなければならない手続きは、確認申請以外にも各種条例に基づく手続きなど様々で、それぞれに届出や申請が必要になることが多く、時間と手間が掛かる作業となります。建物や開発の規模にもよりますが、大規模建築物の場合には確認申請を含め半年以上の手続き期間を要することもままあるのです(審査期間が不明確だった)。
これら諸手続きに掛かる時間を少しでも短縮できないかと考える関係者は多いのではないでしょうか。

平成11年に建築基準法が改正施行され、それまで役所でのみ行われていた確認業務を民間の指定確認検査機関(※2)でも行えるようになりました。役所に比べ手数料は若干高いのですが審査が法定期間内(※3)で完了するのでスケジュール上のメリットが大きいという判断から、確認申請は指定期間に依頼することが多くなったようです。
私自身も何度か指定機関を利用したことがあり、受付の混雑ぶりを見ると、利用者が増加傾向にあることにもうなずけました。

確認申請と指定機関の話から思い起こすのは、昨年発覚した構造計算書偽装問題。まだ記憶に新しいところです。
ここでは構造計算書偽装問題の内容については触れないこととしますが、この問題の後、建築基準法や建築士法等の改正に向けた動きが活発になったのは事実です。特に構造設計に関して、一定規模の建物の構造設計には、構造一級建築士の資格を必要とすることや確認申請における構造設計者の明確化など、現時点ではまだ法制化されていませんが、来年には法改正を行う方向で協議が進んでいるようです。
構造計算は第三者の構造専門家のチェックを受けることになれば、審査期間が大幅に延び、それに掛かる費用も増加することは必至です。
法規制を厳しくすれば建築の安全性が担保されるとは思えませんが、少なくとも今までの感覚ままでは済まないと考えていますので、成り行きを静観する必要がありそうです。

建築が多種多様になり、設計に高度な専門性が求められるようになったから、これまでのやり方では駄目だという理由で制度改革を進めようとしていることには釈然としない気持ちもあります。
過去においても建築は多種多様だったし、その時々で専門性は求められてきました。そして多くの先輩達は、窮地の時こそ神経を研ぎ澄まし最善の解決策を見出してきたのだと信じています。
今、私達設計者に求められることは、善人としての振る舞いではなく、豊かな発想力と成し遂げようとする意志そして自分にも他人にも正直な心ではないでしょうか。
良い建築が存続するためには、施主(建築主)の意識、設計者の知識、施工者の良識、この三拍子が揃っていなければ成し得ないのだとつくづく考えさせられてしまいます。

※1:建築物を新築したり増築、改築、移転すること。
※2:指定機関が行う建築確認は、計画内容に対する審査期間と金額を契約する引き受け業務。
※3:役所で行う確認の場合7日又は21日以内で確認済証を交付しなければならないが、指定機関はその定めがないので契約の内容による。通常は法定期間を審査期間に設定している。



2006/11/22


【お】屋上庭園のお話し

屋上庭園や屋上緑化。どちらも建築物の屋上に植栽を施すという行為なのですが、何か違った印象を受ける言葉です。
用語の定義で言うならば、屋上庭園は植木鉢を並べて造られた屋上の庭園や陸屋根(ろくやね)の建物の屋上に土を載せ草木を配して造られた庭園ということになります。
古くは、古代メソポタミアで新バビロニア王国の王が築いたとされる空中庭園(世界の七不思議の一つ)や古代ギリシヤ・ローマの都市住宅にも見られた庭園があり、近代では、ル・コルビュジエ(1887-1965)が提唱した「近代建築の5原則(=ピロティ・自由な平面・自由な立面・連続水平窓・屋上庭園)」に挙げられています。
日本では、下関にある旧秋田商会ビルの屋上庭園(日本庭園)、台東区谷中の朝倉彫塑館(屋上菜園)が先駆けとして有名です。

一方、屋上緑化はもう少し広義の解釈となるようです。屋根面は直射日光が当たると相当の高温になります。夏場は特に顕著であり、構造体の保護という観点からも屋上面の緑化は有効と考えられています。温度上昇を抑える意味で、屋根面を樹木や地被類(グランドカバー)で被うことが有効とされていて、景観面だけでなく建物や環境の保護という機能面の意味合いも込められているのだと思います。

最近地球温暖化や都市の温暖化(ヒートアイランド現象)が危機的状況にあると言われていますが、特にヒートアイランド現象の抑制に効果的な、屋上面の緑化が注目されています。東京都心部の最近100年の平均気温が約3℃上昇していると言われていて、世界的に見ても、これ程の気温上昇となっている都市は他に例が無いそうです。まさに東京の危機的状況には本腰を入れて対策を立てる必要があるのです。

これまで屋上面に対しては、荷重制限、乾燥、根による建物の破損、ビル風などで、通常の技術では緑化が困難とされてきましたが、近年、人工土壌による軽量化技術や自動灌水システム等の開発によって様々な建築物への屋上緑化が行われるようになりました。
東京都では、1000u以上の敷地で建築行為を行う場合に、自然保護条例によって敷地や建物上(屋上緑化など)に緑化が義務付けられます。このように、屋上緑化の義務化など、行政側の対応策も強化されていて、私たち自身の意識改革が大切になってきているのだと実感せざるを得ません。
因みに、東京23区で緑化可能な屋上面を全て緑化すると、緑化総面積が850haを超えるとも言われています。建物の屋上が新たな都市空間といわれる所以なのです。
屋上庭園や屋上緑化を含む緑化によって、これまで建築行為で破壊された環境や生態系を、今度は私たちが創出・回復しようとしていることは、なんとも皮肉なことなのです。

緑化の効用には、冷暖房効率の向上、雨水放出量の抑制、生態系の創出、景観形成、アメニティ効果等があります。
本来であれば、失われた緑を地表面で再生するのが最も良い方法なのですが、今はヒートアイランド現象への対策として屋上緑化が注目されているので、楽しむ緑より被うための緑が増えてしまっているようです。
私は、緑化の効用のうち特に「生態系の創出」という点を重視したいと考えています。なぜなら、緑化をすれば直ぐに生態系が回復されるわけでは無く、弛まぬ努力が不可欠なこと。そして、緑化以外に生態系回復のための有効な手段がないと考えているからです。そして生態系を回復しようとする緑化においては、樹木の種類や密度などが重要になってきますので、外来種に頼りがちな緑化には慎重でなければなりません。とにかく一度破壊した自然環境を取り戻すことは長い時間が掛かるのです。

屋上庭園の話から環境の話へと広がってしまいましたが、過去の人々が理想とした都市環境は、今私たちが見ている都市の風景だったのでしょうか。
地球環境の問題については、他の諸問題に優先して対応すべきとの考え方もあります。人類がかつて経験したことのない状況には特効薬がないので、一人一人が今出来ることをやる、ということでしか解決できないことも事実なのです。
風にそよぐ屋上庭園の緑を見ていると、そんなことを考えてしまうのです。



2006/09/27


【え】エレベーターのお話し

「建物の上下階への移動を容易に行うための昇降装置」。回りくどい言い方ですが、エレベーターの定義を示した言葉なのです。

最近、死亡事故が起きたりと話題になったエレベーター。私たちの生活に浸透し、無くてはならない存在となったエレベーターとは、いったいいつ頃から使われるようになったのでしょうか。

昇降装置の起源としては、木製のドラムを人力や動物の力で回転させ、ロープを巻き付けて荷物の上げ下げを行う装置が、紀元前3世紀頃にはあったと考えられています。
また、フランスのモン・サン・ミッシェル修道院には1203年に製作された昇降装置が現存しているそうです。荷物の上げ下げ用の装置であれば、相当古くから使われたと言うことですが、人を運ぶための昇降装置となると、出現はずっと後になってからで、ましてや昇降路を設けたエレベーターは、19世紀になってからとつい最近のことなのです。
しかし、これらの装置は現代的意味でのエレベーターではなく、技術的には未熟で安全装置(落下防止装置)が付いていないものだったのです。
私たちが思うエレベーターの原型は、1850年頃アメリカ人のエリシャ・グレーブズ・オーチスによって考案された落下防止装置付きのエレベーターと考えて良いと思います。そして、オーチス以降エレベーターの落下事故は一度も起きたことが無いということが、メーカーの自慢になっていました。しかし、落下事故ではないけれど、制御の不具合のよって死亡事故が起こってしまったことに、エレベーターの安全性を信じて疑わなかった多くの人々にとって大きな衝撃となったのです。そして建築に携わる私たちも例外ではなかったのです。

建物の高層化や大型化が進めば、より高速で大容量のエレベーターが要求されてきます。現在開発が進められているものには、毎分1,000mを超える超高速エレベーターがあると聞きます。要求がある以上、メーカーの開発は留まるところを知らないようです。
高性能化が進めば同時に安全性も高められなければなりません。地震などの災害時に安全に停止する機能は、既に確立された技術として一般的に装備されていますが、現在の所災害時の避難設備としてエレベーターを利用することは出来ないのです。災害時に階段以外に上下方向の移動手段が無くなるとすれば、超高層ビルは正に陸の孤島となってしまい、耐震性能や防火性能が高いとはいえ超高層ビルのアキレス腱がエレベーターということになってしまいます。

建物の設計において、エレベーター計画は利便性、快適性、経済性の観点でバランスが重要となります。台数が少ないと待ち時間が長くなり快適性が損なわれますが、かといって台数を増やせば経済的でありません。建物の装備の中でもエレベーターは高価な設備なので、利便性を損なわない範囲で出来る限り少ない台数の計画が求められるのです。
かつて、熟練した運転手が各階に停止させていたエレベーターが自動運転化され、変化する交通需要に応えるために複数台を一括制御する群管理システムが開発されたことで、基本的には技術の完成を見たといって良いと思います。

日本最初のエレベーターは1890年に浅草の凌雲閣に設置されたもので、世界初の電動エレベーターが開発されて僅か1年後に輸入されたといいますから、日本人の新しもの好きには驚かされます。その後1955年、群管理を行う3台1群のエレベーターが大阪三和銀行に導入され、現在に至るわけです。
日本でも100年以上の歴史があるエレベーターですが、駅のホームに設置されるようになったのは最近のことで、開かずの踏切を越えるために、エレベーター付きの歩道橋を設置することになったJR線の話は記憶に新しいところです。
高齢化社会の到来に備え、建物のみならず様々な場面でエレベーターの出番が増えてきましたし、搬送機能だけでなくシースルーエレベーター等意匠上の演出も兼ねたエレベーターを使うことも多くなってきました。ガラスカーテンウォールの技術進歩によって、より透明感のある外壁が造られるようになったからですが、超高層ビルに設置されているシースルーエレベーターは相当のスリルが味わえます。
私が特に怖いと思ったのが、センチュリータワー(※)の超高速エレベーターで、かごの壁が床までガラス製のため、正にフリーフォールの感覚です。また、2011年完成予定の新東京タワー(すみだタワー)には、どのようなエレベーターが導入されるのか、興味のあるところです。

モーターや制御技術等、利用者の目に見えない場所での技術革新がエレベーターの進歩にとって不可欠であったことは疑う余地はありませんが、時代が過ぎても基本形態は変わっていません。
そこにあるのが当たり前に思われているエレベーターは、今後様々な場面でその必要性が高まるものと考えられます。斜行や垂直横行等の特殊エレベーターも一般的になるかもしれません。しかし、エレベーターは遊園地のアトラクションではないのですから、スリルや驚きよりも利便性と安全性が今以上に確保されることを願わずにはいられません。そして、技術論だけではなく、利用者側のマナーや慣例等と合わせて確立される安全性が求められる性能だと思います。
ユニバーサルデザインが当たり前の時代ですから、待ち時間が短くて、速ければ良いという考え方では駄目で、分かり易くて、使い易いエレベーターが必要なのです。

※:水道橋とお茶の水の中間、外堀通り沿いにある超高層ビル。ノーマンフォスターの設計で1991年竣工。



2006/08/07


【う】ウナギの寝床

細長い敷地や建物の形状を表す言葉に「ウナギの寝床」があります。ウナギが住むような細長い家と言うことでしょうか。間口が狭くて奥行きが長い細長空間は、使い勝手が悪い印象があるので、出来れば避けたいと考える人が多いと思います。
では、何故そのような細長い形状の敷地が出現したのでしょうか?

かつて、家屋を新設する時には間口を基準に税負担を求める「間口税」というものがあったそうです。「間口が基準ということは、面積が同じならば間口を狭くして奥行きを長くした方が、税負担が少なくて済む」ということを考える知恵者が現れたことは想像に難くありません。
「ウナギの寝床」が税対策の結果として出来たとする所以ですが、誰かがやってみて、特にお咎めがなければ次から次へと現れてくるのは、今も昔も変わらないことのようです。

こうして一般化した「ウナギの寝床」を建築様式と捉えれば、代表格は京の町家と言うことが出来るでしょう。そこには建物の形態上の特徴のみならず、奥行きを生かす工夫が見て取れます。通り庭や吹抜けそして坪庭など、隣地側に余裕が無い敷地条件を克服して、採光と通風そして景観までも取り込もうという手法、今後の建築に積極的に取り入れられるべき要素だと思います。
また、間口が狭い分、通りに面してより多くの家や店が並んだことが、賑わいのある個性的な町並みをつくり出したことも事実なのです。意図されたことかは分かりませんが、建築計画とまちづくりの両面から参考になることが多いのが「京の町家」です。このような「ウナギの寝床」であれば、進んで受け入れたい人も多いのではないでしょうか。

ところで、「ウナギの寝床」と呼べる敷地や建物はどの程度の形状なのでしょうか?
間口:奥行きの比が1:3位だと、細長い「ウナギ」の感じはしませんし、比率が1:5程度でも間口が10mも20mもあるような敷地であれば「ウナギ」的ではありません。面積と比率の両方が満たされて、ウナギの寝床」は成立しそうです。
私見ですが、間口が2〜3間(4〜5m程度)、奥行き10間程度の面積30坪あたりが、語るに適切な規模のような気がします。
「ウナギの寝床」は、実際に東京でもよく見掛ける規模形状の敷地ですが、こちらは「京の町家」のようにはいきません。都市部の住居系地域にあって、建築基準法などの諸規制を受ける「ウナギの寝床」の中には、建物計画に四苦八苦する敷地も多いのです。
仮に、「ウナギの寝床」をお持ちなら、駐車場は望まない、部屋数は気にしないなど、幾つかの要望を諦めることで個性的で快適な住宅が実現可能であることを覚えておいて下さい。「住まい方」にはルールは無いのですから、細長いのなら細長いなりに、特徴を生かすことが大切だと考えています。
そして、「ウナギの寝床」を単なる細長い敷地で終わらせないために乗り越えなければならないことは山ほどありますが、都市の風景として定着させることが出来るとしたら、それは非常に意義深いことだと思うのです。



2006/07/03


【い】石のお話し

今回は、建築でよく使われる「石」のお話です。
石と言っても、砂利や砕石のことではなく、建築の仕上に用いる板状の加工石材について焦点を当ててお話しをしたいと思います。

石材に限らず、建築の仕上材料に使われる素材は耐久性が高く美観上も美しいものが好まれ、それらの中から建物イメージに合う材料を選択して使用しています。ただ、本来石は高価な材料であったため、特別な建物にのみ使われてきた経緯があります。
かつての銀行や百貨店など富裕層を顧客とした商売では、高級感や重厚感そして恒久的なイメージを表すために石を店舗建築に使ってきましたが、可変性や透明感を求める現在は建物の高層化もあって、軽い材料が仕上材の主流になっています。同時に、安価な海外製品やプレカット加工品の普及で、これまで以上に広く様々な用途の建物に石が使われるようになったのも事実です。

石は内外装材として広く使用されていますが、その代表格が花崗岩と大理石です。
花崗岩(ベルファストブラックや稲田など)は地中で徐々に冷却、凝固した深成岩で、強度が大きく吸水性が小さいという特徴があります。自然界に広く存在し、大きな塊で採掘されることから、最も一般的に使われている岩石と言うことが出来ます。
一方大理石(ビアンコカララやトラバーチンなど)は火成岩や堆積岩などが高温高圧を受けてできた変成岩のうち接触変成岩の代表的なものです。緻密で強度は高いものの、耐火性、耐酸性は劣ります。しかし、磨きをかけると非常に美しい光沢を持つことから内装仕上材として使われることが多い岩石です。
その他、ライムストーン(石灰岩)なども内装材として使われていますが、何れの岩石も天然資源ゆえに枯渇が懸念され、一部の石材は入手困難になっているものもあるほどです。

現在よく使われる石の表面仕上は、磨きやバーナー仕上がほとんどで、その他に小タタキ仕上やビシャン仕上、ブラスト仕上など様々ありますが、コストや職人の確保等の理由で最近は見掛けなくなってきています。
石は、磨くとその石が持っている模様や色などの特徴がはっきりと現れます。でも、ただ磨けばいいというものでもありません。
例えば外部の床に本磨き仕上を施せば、雨などで濡れた場合に滑って非常に危険ですから、バーナー仕上等の防滑処理が必要になります。逆に、内部の床に用いる場合は清掃のし易さが求められますので、バーナー仕上げの上にワックスを塗ったりして汚れを付き難くする工夫が必要になります。
何れにせよ、適材適所の考えに基づき石種や仕上げを選定しなければなりません。高価な石(上級品)をバーナー仕上にしたら勿体ないのです。

気候と建築の様式は密接に関わっています。エジプトのピラミッドやギリシャの神殿に代表される石造建築は、乾燥した気候ゆえに数千年の歳月を経ても現存することが出来たのだと思います。しかし地球温暖化の影響は、多くの石造建築に暗い影を落としています。
スフィンクスもパルテノンも、そしてアンコールワットやサグラダファミリアも、酸性雨によって石の劣化が著しく、その対策が急務と言われています。
日本の近代建築でも、同様の問題が指摘され、恒久的に美観を保つはずだった石の外装材が相当のダメージを受けている話を聞きます。
そう言えば最近は、良質な石材の不足や環境問題、他の建築材料の進歩などもあって、大規模に石の仕上げを使う建築が少なくなったような気がします。
流行もあるのでしょうが、バブルと共に石も弾け飛んだ感じです。「バブルの塔」と揶揄された東京都庁舎や横浜ランドマークタワーは外装材が石ですが、バブル後の開発となった汐留や品川そして六本木では、金属とガラスの外装材を使った建物が多いことからもうなずけます。

最近では石を数o厚にスライスする技術や石模様のプリント、石と間違えるような塗装仕上など多くの“石風”仕上材があります。
偽物とばかに出来ないものもあるし、場合によってはこちらの方が適材なのではないかと思える程の執念を感じる材料もあるのです。資源の少ない日本だからこそ開発の意欲が高いのかもしれません。
日本では「石を貼る」と言いますが、石文化の本家ヨーロッパでは「石は置くもの」と言われています。石に対する価値観の違いを表した言葉だと思いますが、
生活や建築、自然の材料の関係には、とても興味深いものが多くあります。そして、自然に学ぶ姿勢は、現代の私たちが特に意識しなければならない大切なことのように思います。
伝統的な技術の継承と新しい材料の大胆な利用がこれからの建築を魅力的なものにしていくような気がしています。



2006/06/02


【あ】アルミニウムのお話し

アルミニウム(Al)は、様々な産業のあらゆるところに使わている素材で、私たちの生活に無くてはならない金属です。
私たちがよく目にするアルミは、ジュースなどのアルミ缶やサッシュを始めとする建材、そして生活用品全般と多岐に渡ります。
建築の世界では、金属でありながら軽量で加工しやすい特性そして高い耐久性や美しい光沢(意匠性)を生かした仕上材料として使用することが多く、ビルの外壁やサッシュは良く目にする代表的な製品の一つです。

アルミニウムは他の幾つかの金属を混ぜることで、特性を変えることができます。マンガン(Mn)やマグネシウム(Mg)を混ぜて強度や耐食性を上げたり、ケイ素(Si)を加えて耐熱性を向上させる等、様々な種類のアルミニウム合金があります。私たちが日常的に使っているアルミ製品は、このようなアルミニウム合金なのです。

例えばガルバリウム鋼板という材料をご存じでしょうか。これは、鋼板にアルミニウムと亜鉛(Zn)の合金メッキを施した耐候性の高い製品で、住宅の外壁や屋根によく使われています。また、アルミニウム製のハニカムを板材でサンドイッチしたアルミハニカムパネルは、軽量で強度が高く非常に平滑なパネルを製作できるので、大型の庇や屋根などに使われます。
このように、建材として非常に魅力的な素材ですが、高価な材料であるが故に限定的な使われ方しかされなかったのが実情です。
同じ厚さの板材を例にすると、鉄板の10倍近い価格となります。地金製造に多量のエネルギー(電力)が必要なことと投資対象となった地金の高騰が「高価な材料」の要因ですが、供給量の約半分をリサイクル材が占める「循環型素材」であることも忘れてはいけません。
リサイクル材は、新たな地金を生産する場合に比べて、必要なエネルギーが3%程度で済むエコ素材なのです。

今後は、仕上材だけでなく、構造材としてアルミニウム合金を使った建築が増えてくると思います。実際に、住宅規模ではオールアルミニウム合金製の建物が建設されていますし、もっと大きな規模でも耐火性能が確保できれば実現可能と考えられています。
コストや熱的な問題など克服しなければならない課題も多いのですが、いずれは当たり前に「アルミニウム合金構造」の建築が建てられ、構造から仕上材の全てがアルミ合金製で、リサイクル率100%という建物が出現するかもしれません。
アルミニウムは、将来益々注目される素材なのです。



2006/05/22



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