| 建築主からの与条件は、家族4人が住まう住宅であること、そして、かつてこの敷地を月極駐車場として使用していた経緯から、必要台数分の駐車場を確保すること。──この2点のみであった。
その駐車場の大きさこそが、計画の決定要因となり、私の頭には「住宅らしからぬ住宅」になりそうな予感がよぎった。 1階の開放スペースの上空に、ふわりと浮かぶ希有でインパクトのある形態。 そんなイメージがぼんやりと浮かんだのは、千住の中でも特に古いこの地域で感じた、どこか時間が止まったような“停滞感”が影響していたのかもしれない。
求められたのは、柱以外に遮るもののないフラットな空間。 この構成を実現するため、1階は鉄骨によるフレーム構造とし、2階には木造の住宅部分をのせた。 南傾斜の緩勾配屋根と深い庇、楔形(くさびがた)のフォルム、角の立ったシャープな線。 見る角度によって変化する軒のラインと、光の加減で輝きを変えるアルミ部材──それらが、この建物の外観に独特の存在感を与えている。
工事中、近所の小学生たちの会話がしばしば耳に届いた。
「オレ、この家に住みたい!」
──なんとも設計者冥利に尽きる言葉である。
きっと、1階の広々としたスペースが、彼らには夢のような“遊び場”に見えたのだろう。 キャッチボールやラジコンカー。あるいはただ走り回るだけでも、心が弾むような空間に映ったに違いない。
もしかしたら、ここが彼らにとっての「名所」になったのかもしれない──そう思うと、不思議とこちらの胸まで熱くなる。
果たして、私はこの街に“楔”を打ち込むことができただろうか。
その答えは、小学生たちが大人になる頃まで、少し待たねばならない。
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